2022年、夏。
道具も経験もなかったが、家族全員の思いが一致し、今年はキャンプに挑戦することにした。出来る限り自然を感じるキャンプ、不便を楽しむキャンプを目指した我々は、借りたテントを持参して宮城県登米市の「三滝堂ふれあい公園」へ向かった。
林明子さんの『はじめてのキャンプ』を読んで、こどもたちはキャンプへのイメージを膨らませていた。彼らの持ち物はこの本の16,17ページを参考に自分で準備してもらった。わたしのほうは山尾三省の『火を焚きなさい』を手に取る。そう、キャンプで何がしたいかを話していた時、夫は火を焚きたいのだと言った。コテージでは満たされないのである。便利で小奇麗でクールなキャンプでなくて、あるもので何とかして土と一緒になるようなキャンプを。
三滝堂ふれあい公園はこどもたちが川遊びを楽しめるとてもよい場所だった。テントを張り、こどもたちと川で遊んでいる間に、夫が火起こしと料理。こどもたちも木の枝や松ぼっくりをくべたり、火を吹いたりして、仕事をするといい顔をする。お昼は焚き火で焼いた肉や野菜、友人の作ったキーマカレーなどを頂いた。日も暮れてくると、デイキャンプや川遊びで賑わっていた人々が次々にいなくなって、ついに我々だけになった。こどもたちはクタクタになって早々に寝てしまった。夜は残った料理とノンアルビールを頂いてテントに入る。
すっかり暗くなると、獣など出てこないだろうかと怖さを感じるほど森の深さを感じていた。汗でベトベトしてなかなか眠れない。聞いたことのない森の生き物たちの声がたくさん重なり合って神秘的だった。私というニンゲンが、ただの生き物のひとつにすぎないような感覚になって、偉そうにしていたニンゲンとしての日常もここでは何でもなくて、ひとつの命として平等にここにあり、ともすれば食べられちゃうかもしれないのだ、というくらいちっぽけなもの。そうして、私は自然の一部になれたような気が、ほんの少しした。
眠ったか眠らないかのうちに朝が来た。4:00過ぎだろうか。獣に食べられず生きていた(笑)。娘が夫と火を起こしている。私のために湯を沸かしてくれていた。それじゃあ、珈琲でも焙煎しようか。「かあさん、ふくろうの声聞こえたよ」と娘は嬉しそうにしている。そんなこんなしているうちに、やかましい息子が起きてきた。「この世でいちばん大切なものは静かさである」という山尾三省の詩のことを思い出した(笑)。ともあれ、はじめてのキャンプは家族みんなが思い思いに楽しめたようで、夏の善き思い出となりました。
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